東京高等裁判所 昭和54年(ラ)471号 決定 1979年6月28日
抗告人(債権者)
有限会社誠信
右代表者
谷口勇
相手方(債務者)
ゼネラル産業株式会社
右代表者
政所重彦
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、抗告の理由は、別紙のとおりであるが、要するに、「差押えるべき債権の特定は、本件債権差押及び取立命令申請書に記載したもの以上に特定することは不可能であり、原審裁判所以外の裁判所では、同程度の特定で認容されているのであるから、原裁判所も認容すべきである。」というのである。
二記録によると、抗告人は、昭和五四年四月二日東京地方裁判所に対し、同裁判所昭和五三年(手ワ)第三八四二号約束手形金請求事件の仮執行宣言付判決の執行力ある正本に基づき、相手方の第三債務者株式会社東京都民銀行に対する債権について債権差押及び取立命令を申請したこと、右申請に対し、右裁判所は、昭和五四年四月一〇日、抗告人に対し、差押うべき債権の種類及び数額の項に記載の「手形不渡処分を免れる目的で第三債務者を通じ東京銀行協会に提供させる目的で第三債務者御徒町支店に預託した預託金返還請求債権」(以下、預託金返還請求権という。)及び「東京地方裁判所昭和五三年(ヨ)第九〇二六号債権仮差押事件に基づき、第三債務者が保管中の金一八五〇円の仮差押の金員」(以下、仮差押債権という。)につき、更に明確にするよう任意補正を促したこと、それに対し、抗告人は、「、預託金返還請求権については、債権差押及び取立命令申請書に記載した以上に特定することは不可能であり、仮差押債権についても、補正する意思がないので、この程度で決定ありたい。」旨回答したこと、そこで、同裁判所は、昭和五四年四月一〇日付で、抗告人の債権差押及び取立命令申請のうち、預託金返還請求権及び仮差押債権に対する申請部分を却下する旨の決定をし、同決定の正本は、抗告人に同年同月一三日送達されたこと、また、同裁判所は、右却下部分を除くその余の申請につき、審尋手続を経ることなく、同日付で債権差押及び取立命令を発し、同決定の正本は、同年同月一二日、第三債務者に送達されたが、相手方に対しては未送達であることがそれぞれ認められる。
三そこで案ずるに、民事訴訟法第五九六条第一項には、「債権者ハ差押命令ノ申請ニ差押フ可キ債権ノ種類及ヒ数額ヲ開示ス可シ」との規定が存するが、これは、差押えるべき債権の発生原因及び金額を表示することによつて、他の債権と区別し、差押の範囲を明確にする必要があるという趣旨に基づくものであるところ、本件の場合、預託金返還請求権については、いかなる手形に対する不渡処分を免れるための預託金であるのかが明らかでなく、その金額も明示されていないから、差押えるべき債権が特定されているものということはできず、また、仮差押債権金一八五〇円については、申請書に裁判所名と事件番号の記載はあるが、当事者名等の記載がなく、疎明資料もないから、右仮差押債権と債務者との関係及び差押えるべき債権の内容が明確でない。したがつて、いずれの場合にも差押を認めるべき場合にはあたらないものと認めるのが相当である。
その他、記録を精査しても、原決定を取消すべき違法の点を見出すことはできない。
四よつて、抗告人の本件債権差押及び取立命令申請の一部を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(枡田文郎 日野原昌 山田忠治)
抗告理由<省略>